【映画レビュー「レナードの朝」】人生は悲しみ深く、そして美しい。
円龍寺衆徒の良です!
3月末まで本山職員として勤務しておりましたが、今は退職して自坊に戻っています。
僧侶としてよりも、このHPでお会いすることが多いと思いますが、改めましてよろしくお願いします!
副住職から円龍寺HPの記事執筆を任されたものの、一体何を書こうか・・・と考えたもののまたカラ周り、思いつかないので、お寺とあんまり関係ないのですが、日頃からよく映画を見るので、感銘を受けた映画を皆さんに紹介できればと思い書いています。
レナードの朝
最初に紹介したい映画は1990年公開の米映画『レナードの朝』です。
アメリカを代表する俳優の故ロビンウィリアムズ氏とロバートデニーロ氏の初共演作としても話題になった本作ですが、本当に美しい映画でした。オリバー・サックス氏というイギリスの神経学者が著したノンフィクション小説を原作としており、実話を元に書かれています。
あらすじとしては1969年、ニューヨークのブロンクスにある慢性神経病患者専門の病院にセイヤー医師が赴任します。彼は話すことも動くこともできない患者たちにテニスボールの目の前に放ってみたりと様々な試みを講じていく中で、彼らに反射神経が残っていることに気づき、更なる訓練によって彼らの生気を取り戻すことに成功します。
そして30年前にこの病院に入院して以来ずっと眠り続けている嗜眠性脳炎のレナードに、まだ認可されていないパーキンソン病の新薬を投与していきます。そしてある朝、レナードは目を覚ましました。
続いて他の患者たちも同じ方法で目を覚まし、病院の職員たちと患者たちとの人間模様の物語になっていきます。
ストーリーもさることながら、それぞれの登場人物の人物像が本当に丁寧に描かれていました。
まずセイヤー医師は非常に優秀であるものの、内向的で不器用な人物として描かれています。
舞台となる病院に赴任したのも進んで希望したわけではなく、なんとか仕事にありつけたという感じで、そこでも立ち回りが下手で、周りの協力を上手く得られません。そんな中でも最初から彼の考えに深い共感を示し、彼の仕事を隣で支えていた看護師のエレノアに恋心を抱いていても、自分からアクションを起こせずいます。しかし、レナードに自分の気持ちに素直になるよう背中を押されたり、彼との関わりの中で少しずつ変わっていきます。レナードはセイヤー医師にとって、患者を越えてかけがえない「友達」になっていきます。
また、レナードの母親も人間の深さを表している人物でした。
彼女は動くことも話すこともできないレナードを30年間世話してきており、レナードが目覚めた時には泣いて喜ぶのですが、レナードが自我を持ち、他の女性に恋に落ちたりしていくことを素直に喜べません。30年間側にいたレナードが自分から離れていくことを受け入れられないのです。自分に執着よりも相手の幸せを願うのが本当の愛であるというのは誰もが分かっていることかもしれません。しかし、この母親がそうであるように、人間の心はそう簡単にはいかないのです。執着もまた、愛が持つ深さの一つではないでしょうか。
そしてレナードは目覚めてから、人生のハイライトを映すかのように様々な経験をします。自我を持ち、友と語らい、恋に落ち、そして願い通りにいかない現実に戸惑い苦しみ、それでも向き合っていくレナードの姿に、「生きる」ということの本質を感じます。
劇中でこんなシーンがあります。
ある夜中のこと、自宅で寝ていたセイヤー医師は電話でレナードに呼び出されます。
そこでレナードはセイヤー医師に大振りのジェスチャーを混じえながらこう語ります。
「みんな人生とは何かを忘れている。生きる素晴らしさを忘れている。持ってるものの尊さを教えてやらなきゃ。普通に暮らし、普通に生きてることがどんなに尊いか。人生は自由で最高に素晴らしいって!」
歌手のさだまさし氏の『風に立つライオン』という歌の一節に「僕は今を生きることに思い上がりたくないのです」という言葉がありますが、それがレナードのこの言葉と重なりました。私たちは「生きている」ということそれ自体がどれだけ尊いことであるかを本当の意味で知っているだろうか、そんな問いを持たずにはいられない一幕です。
しかし人生とは往々にして願い通りにはいかないものです。この作品でも同じく全てが良い形で終わる単純なハッピーエンドの映画ではありません。しかし、だからこそ人生は美しいのだと思います。苦しみ悲しみが深いから喜びも深いのです。
そしてその事実を引き受け、真っ直ぐに命を生きている人の姿は、そこに関わる人たちにも波及していきます。まさに人を仏としていただいていくという関係性です。
これ以上話しますとネタバレになってしまうので(もうなっていたらごめんなさい・・・)シーンについてはこれくらいで控えますが、是非みなさんにも観ていただきたい映画の一つです。
余談ですが、原作者のオリバー・サックス氏は2015年にがんで亡くなる半年前に出版された著書『My Own Life(私の人生)』の中で自身の人生についてこう記されています。
「恐怖のないふりはできない。しかし、私を支配する一番大きな気持ちは感謝だ。」